現在世界中でいろんな介助法がありますが、実は目的別に分けると2つに分けることができます。それは「安静介助」と「予防介助」です。
『安静介助』とは、その名のとおり「いかに安静に人を運ぶか」を目指した介助法です。介助する人をいかに負担なくA地点からB地点まで運ぶかという技術です。例としてはリフトやスライディングシートを使用する介助があげられます。これらの道具を使うことで介護者の負担を減らすことで腰痛を予防します。安静介助は介助される人に動かないことを基本的に要求されます。もしくは本来の人間との動きとは違う不自然な動きで支援をします。
目的別にわけていますので、機械や道具を使用しない人の手による介助でも「相手をいかに負担なく運ぶか」という視点であれば安静介助と言えます。人をコンパクトに丸めて運ぶ方法を推奨するボディメカニクスのような技術も本来の人の動きではありませんので安静介助の一つと言えます。
『予防介助』の目的は介助を通して「いかに重症や廃用を予防するか」という視点にたった介助方法です。安静介助が基本的に介助される側に動かないことを求められることに対し、予防介助では積極的にゴソゴソすることを促しながら介助します。人間の本来もっている自然な動きを引き出すことを目的にします。介助者の日々の関わりを通じて介助される人が元気になっていくことを目的にしています。
最初に強調しておきたいののは「安静介助」も「予防介助」もそれぞれ必要な介助です。問題は安静介助と予防介助のデメリットとメリットが明確でないために、その相手にあった適切な関わりができていない。ということです。
例えば全身がやけどしている人に対してゴソゴソしてもらう予防介助なんて負担が強すぎでやらないほうがいいです。その時はリフトなどで安静に運ぶほうが相手の負担も小さくなります。しかしやけども治ってきたのに安静介助を続けているとどうなるでしょうか。当然今後は廃用がすすみそのまま寝たきりの人生を送ることになるでしょう。やけどが軽減してきたら無理なくゴソゴソを促す予防介助を選択する必要があるのです。
おなじように寝たきりの介助をするのに、介助者の腰に負担がないからといって毎日「安静介助」をしていると介助者の腰は守れるかもしれませんが、寝たきりの人の廃用はさらに促進されることになるでしょう。もちろん乱暴な介助よりも安静介助のほうが負担は少ないかもしれません。しかし安静介助を続けていても二次障害や拘縮は少しずつ確実にすすんでいくのです。もちろん介助技術がない場合や、老老介護などで介助者の身体が脆かったり上手に関われない場合は乱暴な介助よりも、安静介助を選ぶほうが現実的にベターといえます。
安静介助では負担のリスクは軽減しますが廃用を予防できるものではありません。本来それが可能なのはゴソゴソする介助技術を学び実践することです。私たちは「予防介助」を学ぶことで安静に介助するよりも寝たきりを予防や重症化を予防することができるのです。寝たきりの人を本当の意味で救えるのは予防介助の技術であると言っても過言ではないでしょう。
予防介助が重症化や寝たきりを予防することを目的にしていますが、困ったことに予防介助として確立した手法はまだこの世の中に存在していません。安静介助の技術は多いのですが、予防介助に関する確立したスキルを教えてくれるところがないのです。
多くの介助は「目の前の人にどう動いてもらうか」という場面的な視点で終始しがちです。A地点からB地点にどう運べばいいか。だけなんです。予防介助は日々行う自分の介助を通して少しずつ動けるようになることを実践する介助です。「積み重ね」の中で介助を日々実践し、楽に動けることをサポートします。例えば寝たきりの人の体が固くて介助が大変なこともあるでしょう。その場面で動かすかばかりに主眼をおくのではなく、その人の日々のポジショニングをして楽に寝てもらったり、日頃からゴソゴソするような介助を促したり、その関わりを日々丁寧に積み上げていくことで緊張が少しずつ緩み本人も楽になり、他の介助もやりやすくなる。 介助を一場面的に介助を考えるのではなく「つながりの中での介助」を行うことで人は少しずつ回復し元気になります。
現実的に今している介助が将来的によくも悪くも本人が影響を与えます。だからこそ少しでも良い影響を積みかさねることを実践する。そのような予防介助を通して本人が少しでも楽に動けるようになることで介助負担が減る。そうなることが利用者・介助ともにwin-winの介助だと言えます。それが予防介助専門士の目指す介助です。
参加資格は「介助を通して人を元気にしたい」という思いがある人なら介護・看護・リハビリ職など問わず参加できます。また在宅でご家族を見ている体験学習なので一緒に学ぶことができます。
予防介助専門士は寝たきりにならないための、もしくは「寝たきりから少しずつ回復するため」の関わり方を実践できることで、多くの寝たきりの人を救い、また寝たきりなるリスクも下げることが可能になります。病院に入ったら「寝たきりになるのが当たり前」の世界を変えていくことができます。
また地域で予防介助専門士という共通理解があることで、他の事業所同士でも職種が違ってもスムーズな連携が可能になります。「予防介助専門士」という名のもとに事業所や職種を超えてつながっていくことが可能です。
また施設で質が高い介助をしている証明にもなります。ご家族も入所することで寝たきりになることを心配している人がたくさんいるとかと思います。そこで「この施設の人は予防介助専門士の資格を持っている」ということが質の高いケアや寝たきりにならない介助をしてくれる安心感や信頼を得ることもできます。
予防介助専門士になることで、ただ安静に運ぶ介助だけでなく、予防介助という選択肢をもつことができます。そうすることで目の前の人にとってどちらの介助が適切か「介助者自身が選ぶ」ことができます。安静介助しか知らないと相手がどんな状態であってもそれを続けるしかありませんが、予防介助を知ることではじめて人は盲目的に信じることをやめて目の前の人と向き合うことができます。介助することが流れ作業ではなく、交流の場になり、それが仕事の楽しさにもつながります。
予防介助専門士を通して、介助される人だけが楽になるのではなく、介助する人も楽しくできる。楽にできる。その結果みんな元気になる。そんな文化を世界中に広げていきたいと思っています。そんな『予防介助専門士』にあなたもなってみませんか?